先にお渡しした道(A)は、あびこさんの文献9本を土台に「論文と同じ種類の AI を Google Colab で小さく再現する」ものでした。この資料の道(B)は、研究からいったん離れて、自分の日常の仕事に AI を組み込むものです。向いている方向が違うので、まず違いを並べます。
研究に近づく道。論文で使われている AI(画像認識モデル)を自分で学習させ、専門家の道具と作法に慣れる。卒業時に残るのは「研究を専門家に依頼するときの仕様書」。
仕事に組み込む道。できあがった AI を部品として、自分の困りごとを解く道具を作り、クラウドに置いて使い続ける。卒業時に残るのは「毎日使う自分専用の道具」。
自分の困りごとを、AI に頼んで「自分専用の道具」にできる。
その道具をクラウドに置いて、病院でもスマホでも使える。
第4回の「チャット型 vs エージェント型」の続きです。①はもうできています。Phase 2 で②、Phase 3 で③に進みます。
「こういう画面で、これを入れたら、こう出てほしい」を言葉で伝え、エージェントに作らせ、動きを見て直しを頼める。手元で動くもの1つ、クラウドで動くもの1つが残る。
「どこで動くか」「データはどこに置くか」「AI はどこで使うか」「月にいくらか」を自分の言葉で聞ける。第3回の「依頼文チェックリスト」が実地で使えるようになる。
「それは①②③のどれか」「中で AI が何をしていて、何をしていないか」が分かる。怖くもないし、鵜呑みにもしない。
医師の日常にありそうな題材を、5つの分野で10個並べました。この中から1つ選んで、Phase 2 で手元版、Phase 3 でクラウド版を作ります(欲張って2つやるより、1つを最後まで育てる方が残ります)。ここにない「本当の困りごと」があれば、それが最優先です。第5回でいっしょに決めます。
箇条書きのメモを貼ると、自分の書き方の癖どおりに紹介状・退院サマリーの下書きに整える画面。「自分の書き方の癖」を道具の中に固定するのがポイント。
体験できること:「毎回 ChatGPT に同じ説明をする」を卒業する。②の代表例。
データ:架空の症例メモを使う。実在の患者のメモは絶対に入れない。
学会抄録を貼ると、指定文字数に収め、用語を統一し、英文版も並べて出す。学会ごとの文字数ルールをあらかじめ登録しておける。
体験できること:「決まりごと(文字数・書式)」と「判断(言い回し)」を、プログラムと AI で分担する感覚。
CSV を放り込むと、決まった集計(年齢層別・術式別・年別など)とグラフが一式出てくる。第3回で「患者テーブルは CSV で扱う」と約束した分。
体験できること:AI を使わない部分(集計)と、使う部分(「この表から言えることを3行で」)の境目。
データ:エージェントに作らせた合成データ。匿名化済みでも実データはこの3ヶ月では使わない。
配られた当直表(写真や PDF)から自分の分だけ抜き出し、カレンダーに取り込める形にする。
体験できること:形の揃っていない入力(写真・PDF)を AI で「読ませて」から、決まった形に出す流れ。
第1回の「神経節細胞チェッカー」は1枚ずつでした。これは写真を何枚もまとめて AI に読ませ、「何が写っているか/数はいくつか/気になる点」を1枚1行の表にする道具。スマホで撮って送ると表が返ってくる形まで育てられる。
体験できること:「AI に画像を見せて聞く」方式の得意・不得意(数が多いと数え間違える等)を、自分の題材で確かめる。
データ:いちご、標本の教科書図、自分で撮った風景など。患者由来の画像は使わない。
学会・勉強会・書類の写真が混ざったフォルダを、AI に中身を見せて分類し、「日付_内容」の名前に付け替えて仕分ける。
体験できること:「AI が判断し、プログラムがファイルを動かす」分担。間違えたときにどう直すか。
ガイドライン PDF や院内マニュアルを放り込んでおくと、「この場合の手順は?」に、どの資料の何ページを根拠にしたかを添えて答える。第4回で紹介した RAG(資料を探してから答える仕組み)の実物。
体験できること:AI が「知っている」のではなく「探して読んでいる」こと。根拠のない答えを見分ける訓練。
データ:公開されているガイドライン・自作のマニュアルなど、公開してよい資料だけ。
PDF を入れると、決まった項目(目的・方法・対象数・結果・限界)で要約し、知らない用語を一覧にする。自分の読み方の型を道具にする。
体験できること:「要約は便利だが間違える」を、原文と照らして確かめる習慣。
学会の締切、当番、気になるニュースなどを、毎朝決まった時刻にまとめて Discord に投稿する。自分のパソコンが閉じていても動く=クラウドに置く意味そのもの。
体験できること:「決まった時刻に、勝手に動く」仕組み。第3回のローカル vs クラウドの実感。
勉強会の申込みや質問を受け付けるページを作り、届いた内容を AI が整えて、自分の Discord に通知する。「人が入力 → AI が整える → 自分に届く」の一通り。
体験できること:他人が使う道具を公開するときの注意(誰でも書き込める・変な入力が来る)。
配布済みのカリキュラム表と同じ骨組みです。第5回で題材を決め、第6〜8回で手元版を完成させ、第9〜12回で同じものをクラウドに移して AI を組み込みます。
| 回 | やること | その回の終わりに残るもの |
|---|---|---|
| 第5回PHASE 2 | 困りごとの棚卸し。カタログと、あびこさん自身の「面倒だと思っていること」を並べ、1つ選ぶ。「何を入れて、何が出てほしいか」を1枚に書く(=問診)。 | 題材が1つ決まる。 入力と出力を書いた紙。 |
| 第6回PHASE 2 | 手元版 v1。Codex に依頼して、まず AI なしの骨組み(画面・ファイルの出し入れ)を作る。動かして、直しを頼む。 | 自分のパソコンで動く画面。 |
| 第7回PHASE 2 | AI を中に入れる。あびこさんが取得した API キーを道具に渡し、「判断」の部分を AI に任せる。第3回の「API」がここで実物になる。 | AI 入りの手元版。 API キーの扱い方。 |
| 第8回PHASE 2 | 使い込んで直す。1週間使ってみて出た不満を並べ、直しを依頼する。変更前に戻せるよう、履歴を残す仕組み(git)をここで最小限だけ覚える。 | 手元版の完成。 「戻せる」安心感。 |
| 第9回PHASE 3 | クラウドとは何かを、置いて確かめる。AWS の準備をいっしょに行い、手元版をそのまま置いてみる。URL ができ、スマホから開ける。 | スマホで開ける自分の道具。 |
| 第10回PHASE 3 | 鍵をかける。URL を知っている人なら誰でも開けてしまう状態を、自分だけ(または決めた人だけ)が使える状態にする。 | 鍵つきの道具。 「公開範囲」の感覚。 |
| 第11回PHASE 3 | AI をクラウド側に組み込む。API キーを手元からクラウドに移し、パソコンを閉じていても AI が動く形にする。使った分の費用の見方を覚える。 | ③の完成形。 費用の明細が読める。 |
| 第12回PHASE 3 | スポット講義 or 予備。あびこさんの希望で1つ(例:毎朝の自動投稿を足す/2つ目の題材に手を付ける/遅れを取り戻す)。 | 希望次第。 |
| 第13回PHASE 4 | 卒業。作ったものを振り返り、「次に自分で作るときの手順書」と「業者・専門家に頼むときの質問リスト」を持ち帰る。 | 道具2つと、手順書。 |
A・B どちらの道でも同じです。あびこさんはコードを書きません。言葉で頼み、動きを見て、判断します。
第4回で触った、あびこさんが普段使っているもの。指示は日本語。
Phase 2 の道具は、ブラウザで開く画面か、フォルダに置いて動かす形。
Amazon が貸してくれるサーバー。第3回の「クラウド=借りたパソコン」の実物。準備は第9回でいっしょに。
道具の中から AI を呼ぶための鍵。あびこさんに取得してもらいます(第7回まで)。使った分だけ課金。
手元で動かしているうちは、間違えても自分のパソコンの中で済みます。クラウドに置いた瞬間から、4つ増えます。
選ぶときの目安です。どちらが上ということはなく、3ヶ月後に何が手元にあってほしいかで決めてください。
| A:論文の手法を Colab で体験する | B:自分の仕事に AI を組み込む | |
|---|---|---|
| 題材 | 文献9本の手法(画像認識の学習) | 自分の困りごと(カタログから1つ) |
| 動かす場所 | Google Colab(学習用) | 自分の Mac → AWS |
| AI の使い方 | 自分でモデルを学習させる | できあがった AI を部品として組み込む |
| 1回の手応え | 学習の結果(精度・混同行列)を読む | 動く画面が増える・スマホで開ける |
| 卒業時に残るもの | 研究の依頼仕様書 | 使い続けられる道具2つ+次に作るときの手順書 |
| 研究との距離 | 近い(論文と同じ道具に触る) | この3ヶ月では扱わない |
| 共通すること | 本人は書かず、頼んで、判断する/患者データは使わない/宿題なし/キーボードは本人が握る | |
Discord で一言ください。「A か B か」を決めきれなくても大丈夫です。「B ならカタログのこれが気になる」「本当はこういうことに困っている」「ここが分からない」など、どんな粒度でも構いません。それをもとに、第5回を準備します。