Proposal B / Phase 2 説明書

自分の仕事に、
AI を組み込む ── 身近な道具づくりから始める、Phase 2〜3 のもう一つの進め方

0 / まず確認

Phase 2 には、2つの道があります

先にお渡しした道(A)は、あびこさんの文献9本を土台に「論文と同じ種類の AI を Google Colab で小さく再現する」ものでした。この資料の道(B)は、研究からいったん離れて、自分の日常の仕事に AI を組み込むものです。向いている方向が違うので、まず違いを並べます。

A

研究に近づく道。論文で使われている AI(画像認識モデル)を自分で学習させ、専門家の道具と作法に慣れる。卒業時に残るのは「研究を専門家に依頼するときの仕様書」。

B

仕事に組み込む道。できあがった AI を部品として、自分の困りごとを解く道具を作り、クラウドに置いて使い続ける。卒業時に残るのは「毎日使う自分専用の道具」。

どちらも「あびこさんが頼み、エージェントが作り、あびこさんが判断する」進め方は同じです。違うのは題材と、卒業時に手元に残るもの。B を選んだ場合、研究(神経節細胞の検出・定量)の話はこの3ヶ月では扱いません。ただし、B で「AI に依頼して道具を作る」経験を積むと、研究の依頼も後で自分の言葉でできるようになります。

B で目指すこと

自分の困りごとを、AI に頼んで「自分専用の道具」にできる。
その道具をクラウドに置いて、病院でもスマホでも使える。

GOAL: PHASE 2–3(第5〜12回)
実はこれは、第1回にやったことの延長線上にあります。「いちごの種カウンター」「神経節細胞チェッカー」は、AI に画像を見せて答えさせる仕組みを、AI エージェントに頼んで道具にしたものでした。あの日の1時間を、自分の仕事に向けてもう少し本格的にやる、というのがこの提案です。
1 / 全体の見取り図

AI の使い方には3つの段階があります

第4回の「チャット型 vs エージェント型」の続きです。①はもうできています。Phase 2 で②、Phase 3 で③に進みます。

① できている
AI に聞く ChatGPT に文章を書かせる、要約させる、質問する。毎回自分がコピー&ペーストして、毎回同じ説明をする。
例:抄録の文字数を減らしてもらう。
② PHASE 2(手元)
道具を作らせる 「毎回同じ説明」を道具の中に固定する。ファイルを放り込めば、決まった形で結果が出てくる。自分のパソコンの中で動く。
例:メモを貼ると紹介状の形に整える画面。
③ PHASE 3(クラウド)
置いて、組み込む 道具をクラウド(AWS)に置き、スマホからでも使えるようにする。AI そのものが道具の「部品」として中で動く。
例:スマホで写真を撮ると、表になって届く。
③が、あびこさんの最初の疑問「人がコードを組むのと何が違うのか」への3度目の答えです。第2回で「AI は確率で次の言葉を選んでいる」を見て、第4回で「エージェントは AI がコードを書く」を見ました。Phase 3 では、AI の「確率的な判断」をプログラムの部品として中に組み込むところまで行きます。人が書いたプログラムは「決めたとおりに動く」、AI 入りのプログラムは「決めていない入力にも、それなりの答えを返す」。この違いを、自分の道具で体験します。
2 / 卒業時の姿

3ヶ月後に、こうなっていること

作れる
自分の困りごとを、道具にできる

「こういう画面で、これを入れたら、こう出てほしい」を言葉で伝え、エージェントに作らせ、動きを見て直しを頼める。手元で動くもの1つ、クラウドで動くもの1つが残る。

頼める
専門家や業者に、迷わず依頼できる

「どこで動くか」「データはどこに置くか」「AI はどこで使うか」「月にいくらか」を自分の言葉で聞ける。第3回の「依頼文チェックリスト」が実地で使えるようになる。

見分けられる
売り込まれる AI 製品を、見分けられる

「それは①②③のどれか」「中で AI が何をしていて、何をしていないか」が分かる。怖くもないし、鵜呑みにもしない。

3 / 題材のメニュー

何を作るか:困りごとのカタログ

医師の日常にありそうな題材を、5つの分野で10個並べました。この中から1つ選んで、Phase 2 で手元版、Phase 3 でクラウド版を作ります(欲張って2つやるより、1つを最後まで育てる方が残ります)。ここにない「本当の困りごと」があれば、それが最優先です。第5回でいっしょに決めます。

読み方: ★ 1回で動く ★★ 2〜3回で育つ ★★★ 手応えあり 手元 クラウドで真価 AI が中で動く AI なしでも作れる 画像
A文書毎回同じ形に整える仕事
紹介状・サマリーの下書き器★
手元クラウドで真価AI が中で動く

箇条書きのメモを貼ると、自分の書き方の癖どおりに紹介状・退院サマリーの下書きに整える画面。「自分の書き方の癖」を道具の中に固定するのがポイント。

体験できること:「毎回 ChatGPT に同じ説明をする」を卒業する。②の代表例。

データ:架空の症例メモを使う。実在の患者のメモは絶対に入れない。

抄録の校正・文字数調整・英文化★
手元AI が中で動く

学会抄録を貼ると、指定文字数に収め、用語を統一し、英文版も並べて出す。学会ごとの文字数ルールをあらかじめ登録しておける。

体験できること:「決まりごと(文字数・書式)」と「判断(言い回し)」を、プログラムと AI で分担する感覚。

B表・数字Excel でやっていることの自動化
匿名化テーブルの集計・グラフ化第3回の約束★★
手元AI なしでも作れる

CSV を放り込むと、決まった集計(年齢層別・術式別・年別など)とグラフが一式出てくる。第3回で「患者テーブルは CSV で扱う」と約束した分。

体験できること:AI を使わない部分(集計)と、使う部分(「この表から言えることを3行で」)の境目。

データ:エージェントに作らせた合成データ。匿名化済みでも実データはこの3ヶ月では使わない。

当直表・予定の整形とカレンダー登録★★
手元クラウドで真価AI が中で動く

配られた当直表(写真や PDF)から自分の分だけ抜き出し、カレンダーに取り込める形にする。

体験できること:形の揃っていない入力(写真・PDF)を AI で「読ませて」から、決まった形に出す流れ。

C画像第1回チェッカーの、その先
写真をまとめて読ませて、表にする★★
手元クラウドで真価AI が中で動く画像

第1回の「神経節細胞チェッカー」は1枚ずつでした。これは写真を何枚もまとめて AI に読ませ、「何が写っているか/数はいくつか/気になる点」を1枚1行の表にする道具。スマホで撮って送ると表が返ってくる形まで育てられる。

体験できること:「AI に画像を見せて聞く」方式の得意・不得意(数が多いと数え間違える等)を、自分の題材で確かめる。

データ:いちご、標本の教科書図、自分で撮った風景など。患者由来の画像は使わない。

写真フォルダの自動整理・命名★★
手元AI が中で動く画像

学会・勉強会・書類の写真が混ざったフォルダを、AI に中身を見せて分類し、「日付_内容」の名前に付け替えて仕分ける。

体験できること:「AI が判断し、プログラムがファイルを動かす」分担。間違えたときにどう直すか。

D知識自分の資料に答えさせる
自分の資料に答える相談窓口★★★
手元クラウドで真価AI が中で動く

ガイドライン PDF や院内マニュアルを放り込んでおくと、「この場合の手順は?」に、どの資料の何ページを根拠にしたかを添えて答える。第4回で紹介した RAG(資料を探してから答える仕組み)の実物。

体験できること:AI が「知っている」のではなく「探して読んでいる」こと。根拠のない答えを見分ける訓練。

データ:公開されているガイドライン・自作のマニュアルなど、公開してよい資料だけ。

論文 PDF を放り込むと要約と用語集が返る★
手元AI が中で動く

PDF を入れると、決まった項目(目的・方法・対象数・結果・限界)で要約し、知らない用語を一覧にする。自分の読み方の型を道具にする。

体験できること:「要約は便利だが間違える」を、原文と照らして確かめる習慣。

E連携・通知クラウドに置くと初めてできること
毎朝、Discord に「今日の分」を届ける★★
クラウドで真価AI が中で動く

学会の締切、当番、気になるニュースなどを、毎朝決まった時刻にまとめて Discord に投稿する。自分のパソコンが閉じていても動く=クラウドに置く意味そのもの。

体験できること:「決まった時刻に、勝手に動く」仕組み。第3回のローカル vs クラウドの実感。

受付フォーム → 整形 → 通知★★★
クラウドで真価AI が中で動く

勉強会の申込みや質問を受け付けるページを作り、届いた内容を AI が整えて、自分の Discord に通知する。「人が入力 → AI が整える → 自分に届く」の一通り。

体験できること:他人が使う道具を公開するときの注意(誰でも書き込める・変な入力が来る)。

どの題材でも守ること:使うデータは架空・合成・公開済みのものだけ。患者の実データは、匿名化されていても、手元・クラウドを問わずこの3ヶ月では使いません(詳しくは「5 / 守ること」)。
4 / 進め方

回ごとの流れと、使う道具

配布済みのカリキュラム表と同じ骨組みです。第5回で題材を決め、第6〜8回で手元版を完成させ、第9〜12回で同じものをクラウドに移して AI を組み込みます。

回やることその回の終わりに残るもの
第5回PHASE 2困りごとの棚卸し。カタログと、あびこさん自身の「面倒だと思っていること」を並べ、1つ選ぶ。「何を入れて、何が出てほしいか」を1枚に書く(=問診)。題材が1つ決まる。
入力と出力を書いた紙。
第6回PHASE 2手元版 v1。Codex に依頼して、まず AI なしの骨組み(画面・ファイルの出し入れ)を作る。動かして、直しを頼む。自分のパソコンで動く画面。
第7回PHASE 2AI を中に入れる。あびこさんが取得した API キーを道具に渡し、「判断」の部分を AI に任せる。第3回の「API」がここで実物になる。AI 入りの手元版。
API キーの扱い方。
第8回PHASE 2使い込んで直す。1週間使ってみて出た不満を並べ、直しを依頼する。変更前に戻せるよう、履歴を残す仕組み(git)をここで最小限だけ覚える。手元版の完成。
「戻せる」安心感。
第9回PHASE 3クラウドとは何かを、置いて確かめる。AWS の準備をいっしょに行い、手元版をそのまま置いてみる。URL ができ、スマホから開ける。スマホで開ける自分の道具。
第10回PHASE 3鍵をかける。URL を知っている人なら誰でも開けてしまう状態を、自分だけ(または決めた人だけ)が使える状態にする。鍵つきの道具。
「公開範囲」の感覚。
第11回PHASE 3AI をクラウド側に組み込む。API キーを手元からクラウドに移し、パソコンを閉じていても AI が動く形にする。使った分の費用の見方を覚える。③の完成形。
費用の明細が読める。
第12回PHASE 3スポット講義 or 予備。あびこさんの希望で1つ(例:毎朝の自動投稿を足す/2つ目の題材に手を付ける/遅れを取り戻す)。希望次第。
第13回PHASE 4卒業。作ったものを振り返り、「次に自分で作るときの手順書」と「業者・専門家に頼むときの質問リスト」を持ち帰る。道具2つと、手順書。

毎回の基本の型

A・B どちらの道でも同じです。あびこさんはコードを書きません。言葉で頼み、動きを見て、判断します。

あびこさん頼む「こういう画面で、これを入れたら、こう出てほしい」
→
Codex作るコードを書き、動かせる形にする
→
あびこさん判断する動かして「違う」「もっとこう」を次の依頼にする

使う道具は4つだけ

作る相手
Codex

第4回で触った、あびこさんが普段使っているもの。指示は日本語。

動かす場所(手元)
自分の Mac + ブラウザ

Phase 2 の道具は、ブラウザで開く画面か、フォルダに置いて動かす形。

動かす場所(クラウド)
AWS

Amazon が貸してくれるサーバー。第3回の「クラウド=借りたパソコン」の実物。準備は第9回でいっしょに。

AI の部品
API キー

道具の中から AI を呼ぶための鍵。あびこさんに取得してもらいます(第7回まで)。使った分だけ課金。

API キーについて。ChatGPT の月額とは別に、プログラムから AI を呼ぶための「使った分だけ払う」契約を1つ作ります。練習の規模なら月に数百円程度です。取得の手順は第6回の終わりに一緒にやります。キーはパスワードと同じ扱いで、チャットや資料には貼りません。
5 / 守ること

クラウドに置くと増える注意

手元で動かしているうちは、間違えても自分のパソコンの中で済みます。クラウドに置いた瞬間から、4つ増えます。

患者の実データは入れない(変わらず)手元でもクラウドでも同じ。匿名化済みと言われても、この3ヶ月では合成データだけを使う。AI に送った文章や画像は、送った先のサーバーに残りうるため。
公開範囲を自分で決めるURL は「知っていれば誰でも開ける」のが初期状態。第10回で鍵をかけるまでは、練習用のものしか置かない。
費用の上限を決めておくAWS も API も「使った分だけ」。上限の通知を最初に設定し、月に一度は明細を見る。第11回で一緒に確認する。
戻せる形で進める直しを頼むたびに壊れる可能性がある。第8回で覚える「履歴を残す仕組み」で、いつでも1つ前に戻せるようにしておく。
6 / 2つの道の比較

A と B を並べて見る

選ぶときの目安です。どちらが上ということはなく、3ヶ月後に何が手元にあってほしいかで決めてください。

A:論文の手法を Colab で体験するB:自分の仕事に AI を組み込む
題材文献9本の手法(画像認識の学習)自分の困りごと(カタログから1つ)
動かす場所Google Colab(学習用)自分の Mac → AWS
AI の使い方自分でモデルを学習させるできあがった AI を部品として組み込む
1回の手応え学習の結果(精度・混同行列)を読む動く画面が増える・スマホで開ける
卒業時に残るもの研究の依頼仕様書使い続けられる道具2つ+次に作るときの手順書
研究との距離近い(論文と同じ道具に触る)この3ヶ月では扱わない
共通すること本人は書かず、頼んで、判断する/患者データは使わない/宿題なし/キーボードは本人が握る
途中で「やっぱりこっち」と思ったら、切り替えは可能です。ただし残り回数の都合で、第8回までに決めるのが目安です。

返事の仕方

Discord で一言ください。「A か B か」を決めきれなくても大丈夫です。「B ならカタログのこれが気になる」「本当はこういうことに困っている」「ここが分からない」など、どんな粒度でも構いません。それをもとに、第5回を準備します。

A か B か 気になる題材 本当の困りごと 分からない点